5つの研究グループ

地球惑星科学専攻では、5つの研究グループにわかれて研究・教育を行っています。
ここでは、それぞれのグループの研究分野について紹介します。

研究・プロジェクト紹介

気候変動ショック-過去に起った急激な気候変動・近い将来にも?!
横山 祐典 (地球惑星システム科学グループ)

 

地球温暖化という言葉が叫ばれて久しいですが、現在の地球は人類が誕生して以来、これまで経験したことがないようなレベルの二酸化炭素を大気中に抱え込んでいて、それが毛布のように地球の表面を覆ってしまうため、地球に入って来た太陽からの熱を逃がすことができにくくなることで、気温も上昇傾向にあります。その為か、最近はとてつもなく大きなサイクロンが観測され、エルニーニョなどに伴った洪水や干ばつなどが目立って起るようになってきています。しかし、これらがどのようなメカニズムで引き起こされているのか、各々の現象の関係はどうなっているのかなど、詳しいことはまだまだ分かっていません。これらのことに明らかにするためにも、過去の気候変動を高精度で復元することが非常に重要です。



図1(上)水中のサンゴの採取をすることで再起の急激な水温変動などが明らかになってきた(下)パプアニューギニアの隆起サンゴ礁とサンゴボーリング。過去数千年から数万年についても急激な気候変動が起こっていたことが、これらのサンプルの分析からわかってきた

 さて、地球を過去200万年間という長い目で見たとき、現在の状態は、決して「普通」の状態ではありません!私たちが生活している今日の地球の状態は、「間氷期」と呼ばれている暖かい状態で、その字を見てもらえればわかるように、寒い「氷期」の「間に」挟まれた時期なのです。この暖かい間氷期と、寒い氷期は周期的に起こってきたことがわかっており、おおよそ10万年間続く氷期と1万年間続く間氷期が交互に訪れています。氷期には氷床が現在のグリーンランドや南極大陸以外にも、北米大陸やスカンジナビア半島にも存在していました。現在のカナダやイギリスも厚さ2000-3000mの巨大な氷の下にありました。有名なニューヨークのセントラルパークにある大きな石が積み重なった層は、氷期に氷床が張り出していた証拠で、つまりニューヨークもカナダとともに、ローレンタイド氷床とよばれる氷の下に存在していたのです(図1)。

図2(左)現在の南極氷床。東南極氷床は陸上に存在するが、西南極氷床は海面下に着底しているため不安定。地球温暖化の影響を受けやすいとの懸念がある。(さらに詳しく知りたい人はこちらへ)(右)氷期のときの北半球の様子。北アメリカと北ヨーロッパの多くは厚さ3000mにもおよぶ氷が存在し、その周りには冷たく乾燥した風がふきおろしていた。これらの氷床は時として大規模に崩壊し、気候変動を左右する海洋循環に影響を与えてきた

ミランコビッチ仮説
では、この周期的な気候変動はどのようにして引き起こされているのでしょうか?20世紀の初め、ユーゴスラビアの科学者ミランコヴィッチは地球が傾きつつ、太陽の周りを楕円の形を描きながら回っていることによって引き起こされる、太陽から地球に到達する熱エネルギーの変化が重要であると唱えました。氷期の地球上に氷床が発達するために重要な北半球高緯度(65°N)の単位面積あたりの熱量(インソレーション)の変化が地球の氷期間氷期という気候変動を支配しているとしたのです。これはミランコヴィッチ仮説と呼ばれていますが、その後1970年代に入って、過去の気候変動を記録している水深数千メートルの海底の泥(深海堆積物コア)の中のプランクトンの化学分析(過去の表層水温を記録している酸素同位体比測定)を行うことにより、どうやらこれは正しそうだ、地球の氷期?間氷期という気候変動はミランコヴィッチの唱えたメカニズムによって支配されているのではないか、ということになってきました。

地球の公転軌道要素と気候変動の関係の検証法?ターミネーションはいつだったか?
ミランコヴィッチ仮説を実証するにはどうすればよいのか。それは地球の気候変動のタイミングが、地球に到達する太陽の熱の変化のタイミングと一致しているかどうかを調べればよいわけです。氷期-間氷期の変動というものは、氷床の消長として現れます。地球上の水の量は一定なので、大陸に氷床ができれば海水が減少し、



図3 氷期と間氷期の移りかわりは冷凍庫に入っている水を入れたトレイに置き換えて考えると分かりやすい。冷凍庫の中が氷期、外が間氷期。外に出すタイミングがターミネーションとよばれる。融けるメカニズムやプロセス、などを理解する事が地球の気候変動システムを理解する事につながる。

氷床がなくなると海水準が上昇します。つまり海水準を調べれば、氷期-間氷期変動を追うことができるわけです。地球科学の研究で、過去のイベントのタイミングを決定する際には、放射性元素の存在比を使います。これで年代を押さえてやることによって、65°Nのインソレーションの変化のタイミングとの関係をつかむことができるわけです。
現在に一番近い氷期が終わった時期をターミネーションIといい、そのひとつ前のもの(つまり一つ古いもの)をターミネーションIIと呼びます。データや年代測定の精度が比較的良いこの2つのターミネーションの時期を決定することはすなわちミランコヴィッチ仮説の検証につながります。1980年代中頃の質量分析器の発達によって、元素の存在度を直接測定できるようになり、分析の精度が格段に向上しました。それを用いて、過去の海面の指標であるサンゴの分析を、カリブ海のバルバドス島や西オーストラリア、パプアニューギニアのヒュオン半島などから採取された試料により行った結果、ターミネーションIIがミランコヴィッチ仮説から予想されるよりも早く起こっていたことがわかりました。このことは北米大陸のネバダ州の気温の変化を記録している方解石の解析結果とも一致し、65°Nのインソレーションの変化が必ずしも地球の気候変動をダイレクトに支配している訳ではないことがわかってきました。では、ターミネーションIに関してはどうか。これについては私たちが行った研究から、19,000年前に起こったことがわかり、これもまたインソレーションの変化とは一致しないことがわかりました。

大きな氷、または小さな氷?それが問題。。。
ターミネーションIに関する我々の研究は、タイミングを決めただけではなく、当時のグローバルな最大氷床量も決定しました。地球は一見固い岩石のボールのようですが、それは人間の生活しているタイムスケールでの話で、実際の地球は粘弾性体であるため、数千年から数万年スケールといった長いタイムスケールの現象には、液体のように振舞います。それはまるでサッカーボールかスポンジのボールのようです。つまり氷期には分厚い氷が乗っていた北米大陸などでは、氷床が解けることによって表面の荷重による圧力が解放されるので、現在もどんどん隆起しています(グレイシャル リバウンド)。一方で、海洋には氷床が解けたことによって流れ込んだ融水が加わったわけですから、その分海洋底にかかる圧力が増大します。押された海底の下にあるマントル物質は、かつて氷床が存在した大陸下へと流動します。アイソスタシーによるこのような効果のため、観測されるかつての海水準変動のデータは、世界中で違ったものになります。



図4 世界中の海水準変動のパターンは場所によって全く異なる。地球の海は前に出て来たような冷凍庫に入れる氷を作るトレイのように変形しないのではなく、氷が融けて海に水が増えたりすることによって、サッカーボールのように変形する。そのため、地球が暖かくなり氷が融けたにもかかわらず、海面は低下しているところも存在する!

これらの地球物理学的なパラメータを考慮しなければ、海水準から氷床の体積を導き出すことはできません。私たちは北部オーストラリア沖で採取された堆積物コアを分析し、それらの年代測定を行い、アイソスタシーの効果を地球物理学的モデリングによって補正し、ターミネーションIの前の最終氷期最盛期(Last Glacial Maximum: LGM)の地球上の氷床体積が、現在に比べて5250万立方キロメートルも多く存在したことを明らかにしました。ちなみにこの値は現在のグリーンランド氷床の約17倍もの大きさにあたります。将来の気候変動をコンピュータシミュレーションによって復元する研究も盛んに行われていますが、その精度を上げるためにも、現在とは対極の気候の状態であったLGMの細かな情報を求めることは非常に重要です。



図5 過去の気候変動を定量的に解析する為の手段:化学分析!

グローバルな氷床量の復元もその一つですが、私たちの研究の以前は、氷床モデルや地形学的データから求めたLGMの氷床量の値と、グレイシャルリバウンドから求めた氷床量の間に大きな差があり、「ミッシングアイス問題」とよばれていました。簡単に言うと氷床の厚さの見積もりに大きな違いが存在したわけで、たとえば前者の場合、LGMには3kmを超す高さの氷床が北米大陸やスカンジナビア半島に存在したことになります。一方で後者の場合、それは2kmほどになり、その差は1kmにもなります。この違いは大気循環のモデルを行う上でも、周りの気温の変動を復元する上でも非常に大きな問題でした。グレイシャルリバウンドのモデルによって求められた氷床量は、それ以上の体積の氷床を荷重として存在させてしまうと、LGMから現在にかけて氷床が消滅した後でも、その地域が十分に隆起することができず(沈みすぎる)、例えば、スカンジナビア半島においては、スウェーデンなどの国々がいつまでたっても海水準よりも低いところに存在してしまうことになるというのが、少ない氷床量を提示する根拠でした。

図6「失われた氷(ミッシングアイス)問題」、氷床の平面的な広がりは比較的高精度に決定する事ができるが、厚さは難しい。これまでに2つの説があったが、その差は厚さにして1000mもの違いになっている。現在の北欧に存在したという氷床の断面の図であるが、同様の問題は北米氷床にも存在した!

LGMを終わらせた急激な海水準上昇
イギリスのNature紙に掲載された私たちの論文の3つ目の重要な結論は、約30,000年前から始まったLGMが19,000年前におよそ10mもの海面の急上昇によって、突然終焉を迎えたということでした。解け出した氷の量は、500年間のうちに約50万立方キロメートルにものぼりました。この点が「ミッシングアイス問題」を解くカギになるとして注目されています。というのはこれまでのグレイシャルリバウンドのモデルでは、LGMから現在へ、ほぼ一定の割合で氷を解かしていました。しかし私たちの研究から、ターミネーションIの早い時期に、大量の氷が融解していたことが明らかになり、それを考慮に入れると、グレイシャルリバウンドのモデルから導き出されていた氷床量よりも大きな氷床を存在させても、観測結果と整合的になることがわかったのです。

過去の急激な気候変動?グリーンランド氷床ボーリング
ではこのほかに、過去の氷床量の急激な変動は起こっていなかったのでしょうか?私たちがパプアニューギニアのヒュオン半島で求めたデータは、最終氷期のまっただ中の過去50,000年間、繰り返し海面を10-15mほども上昇させるようなイベントがあったことを明らかにしました。これらは1990年代になって次々と明らかになってきたグリーンランド氷床のコア中の解析結果とも調和的です。グリーンランド氷床のコアは過去の気温変動を詳細に記録していますが、それによると、グリーンランドの気温が急激に10℃以上も暖かくなったり寒くなったり繰り返し起こっていたことがわかったのです。さらに悪いことに、その移り変わる時間は早いときには数年スケールというとても短いものであったこともわかっています。つまり地球の気候はこれまで考えられていたように安定したものではなく、いつ氷期や間氷期に移行してもおかしくないような、微妙なバランスの上に成り立っているのです。

これからの研究
地球の気候システムは、まるで日本庭園におかれている「鹿威し(ししおどし)」のようなもので、ある状態(しきい値またはthreshold)を越えてしまうと、もう一方の状態へ急激に移行するわけです。


図7 日本庭園にみられる鹿威し。気候変動はまるでこの鹿威しのように、ある一定の安定期間のあと、急激な変化がおきることが分かってきた。

おそらく太陽の熱エネルギーの変化が、地球の気候変動に何らかの影響を与えていることは間違いありませんが、そのほかに地球システムの複雑な現象が絡み合っているため、結果として表れる地球表層の気候変動は、簡単に予測できるところまでは至っていません。これからの研究によって、地球システムのサブシステムどうしのつながりやそのメカニズムをより詳しく明らかにしていくことが求められています。
私たちの研究室では、このような問題に、フィールド、実験、解析を通してアタックしていこうとする意欲ある学生を求めています。興味がある人は一度メールでコンタクトしてきてください。

* 参考資料
Yokoyama, Y., et al. (2000) Nature, 406, 713-716.
Yokoyama, Y., et al. (2001) Nature, 412, 99.
Yokoyama, Y., et al. (2001) Earth and Planetary Science Letters, 193,579-587.

とりあえずまずは日本語で!という人には。。。
横山祐典(2005) Ship&Ocean News Letter, no106, 5Jan, p6-7 "海洋循環が鍵を握る急激な気候変動~海面下のサンゴサンプルがもたらす重要な古気候情報
横山祐典(2002)月刊地球24(1),15-22.
横山祐典(2002)地学雑誌111(6),883-899.

図8 ペンギンも流出している氷山をみて、地球温暖化を心配している?!