5つの研究グループ

地球惑星科学専攻では、5つの研究グループにわかれて研究・教育を行っています。
ここでは、それぞれのグループの研究分野について紹介します。

研究・プロジェクト紹介

地下の温度分布について考えてみよう
- 地震発生帯の温度構造から気候変動の復元まで -

山野 誠 (地震研究所海半球観測研究センター)

 

 地面の下の温度は、より深くへ行くにしたがって高くなっていきますが、その上昇のしかたは場所によって違っています(図1)。つまり、同じ深さでも場所によって温度に差があることになります。私たちは、この地下温度の分布について

  1. 何が温度分布を決めているのか?
  2. 温度に差があると何が違ってくるか?
  3. 実際の地下温度分布をどうやって求めるか?

といったことを研究しています。主な研究対象は、日本列島に代表されるプレートの沈み込み帯で、最近では特に西南日本南岸に沿って起きる巨大地震の震源域の温度構造に着目しています。


図1

 

 一方では、ボーリング孔の中の温度分布から過去の気候変動を復元する、という研究も行っています。この両者はお互いに関係がないように思えますが、実は深く関係しているのです。

[温度が高いところでは地震が起きない]
 地下の温度構造を調べることには、どんな意味があるのでしょうか。もちろん、東京の地下30kmの温度が何℃くらいであるかは、それ自体興味深いことですが、より重要なのは、地下で起きる現象の多くが温度構造と密接に関係しているという点です。これは、地殻やマントルを構成する岩石の性質が、温度によって大きく変化するためです。

 例えば、物の硬さが温度によって変化するというのは日常生活でも経験することです。地下の岩石も同様で、温度が高くなると軟らかくなり、壊れにくくなります。したがって、温度がある程度以上高くなると地震が発生しないことが予想されます。実際に、日本列島や大陸地域の地殻内で起きる地震について調べてみると、地震が発生する深さには限界があること、地下の温度が高い地域ほど、その限界が浅いことがわかります。つまり、地震活動は地下の温度構造に強く支配されているのです。

 この他、地震波の伝わる速度や減衰、岩石の磁化や電気伝導度、マグマの発生、鉱物の変成など、さまざまな現象において温度条件が重要な要素となっています。地球の中で何が起きているかを理解するためには、地下の温度構造についての情報が欠かせないのです。

[地下の温度を知るために、熱流量を測定する]
 地下の温度構造を調べるにあたって、最も基本となる観測データは、「地殻熱流量」(単位時間、単位面積あたりの、地下から流出する熱の量)です。地下の温度が高い場所では、それに応じて熱流量も高くなります。地表面で熱流量がどう分布しているかを調べれば、それに基づいて地下温度構造を計算することができるのです(図2)。


 熱流量は温度勾配と熱伝導率の積で与えられるので、ある地点での熱流量を求めるには、地表面付近での温度勾配を測定することが必要です。陸上では、ボーリング孔の中に温度センサーを降ろすことで、温度勾配を測定することができます。これに対し海域では、長さ数mの金属棒に複数の温度センサーを取り付けたもの(「槍」と呼んでいます)を、海底の堆積物に突き刺して測定を行います(図3)。

「槍」はデ ータ記録装置を収めた重りの下に取り付けてあり、その全体を海上の船からワイヤーで吊り下げて海底に突き刺すのです(写真1)。軟らかい堆積物があればどこでも測定ができるのが利点ですが、希望する海域で調査をする船を確保するのはなかなか大変です。

[巨大地震の震源域の温度構造を推定する]
 西南日本の下にはフィリピン海プレートが沈み込んでいます。この沈み込みプレ ート境界は、東海から紀伊半島、四国の南方沖に東西にのびており、境界面に沿って1944年東南海地震、1946年南海地震といったM8クラスの巨大地震が繰り返し発生しています。これらの巨大地震の発生に至る過程や、それに伴って震源域(地震発生帯)で何が起きているかについては、さまざまな分野の研究者が熱心に研究を進めていますが、それらの環境条件である温度構造を求めることが重要であることは、言うまでもありません。

 私たちは、この地域での熱流量測定を進めるとともに、プレートの沈み込みの影響を考慮に入れた温度構造のモデル計算を行ってきました。モデル計算において、沈み込みの速度などともに重要な要素となるのは、沈み込む海洋プレートの年齢です。海洋プレートは中央海嶺で誕生した時は非常に高温ですが、海底を移動する間に表面から冷やされ、しだいに温度が低くなります。このため、海洋プレートの温度構造は、その年齢でほとんど決まっているのです。そこで、地磁気異常から推定されたフィリピン海プレートの年齢に基づいてモデル計算を行い、プレート境界面の温度構造を求めたところ、過去の巨大地震の震源域となったのは、境界面の温度が350~400℃以下の範囲であることが示されました(図4)。プレート境界の巨大地震についても、地震が発生するフ域は温度構造によって決まることがわかってきたのです。

 

[四国の沖に異常な高熱流量地域が見つかった]
 一方、ここ数年、室戸岬の沖を中心として高密度の熱流量測定を行ってきました。フィリピン海プレートが沈み込む境界沿いには「南海トラフ」と呼ばれる細長い凹地が東西にのびており、熱流量測定を集中的に行ったのは、この南海トラフの底(水深~5000m)とその北側に続く斜面の水深2000m程度までの範囲です。

 

 その結果、トラフの底で予想外のデータが得られました。フィリピン海プレートの年齢に対応する熱流量に比べて、ほぼ2倍に達する値が測定されたのです(図5)。この付近の海底年齢が約1500万年であることは深海掘削によっても確かめられているのですが、熱流量の測定値は、年齢400万年程度の非常に若いプレートに相当する異常なものでした。この異常な高熱流量の原因は、まだよくわかっていません。この地域はかつての海底拡大軸の付近にあたり、海底拡大が止まった後も深くからの熱の供給が続いていたという可能性も考えられますが、十分な説明とはなっていません。

 この高熱流量が重要であるのは、地震発生帯の温度構造のモデル計算に大きく影響するからです。もし高熱流量がフィリピン海プレート深部からくるものだとすると、より高温のプレートが沈み込んでいるのですから、プレート境界面、すなわち地震発生帯の温度も高くなるはずです。したがって、異常の原因を明らかにすることが必要であり、それには高熱流量地域がどのように広がっていて、地殻構造等とどう関係しているかを調べなければなりません。東海沖では南海トラフの熱流量は正常であることが既にわかっているので、目下、紀伊半島沖における熱流量分布を詳しく調べることを計画しています。

[浅海域での熱流量測定に成功]
 室戸沖で高密度の熱流量測定を行ったのが、水深2000mまでであったのには理由があります。水深が浅くなると、海底水温が大きく変動するために表層堆積物中の温度が乱され、温度勾配を正しく測定することが困難になります。この海域の場合、その限界となる水深が2000m程度なのです。ところが、巨大地震の震源域はまさにこの浅海域にあたっており、普通の方法では熱流量を測定することができません。このため、熱流量の観測値とモデル計算との比較ができず、温度構造を求める際の障害となっています。

 

 このため私たちは、浅海域で熱流量を測定することを目的とし、海底堆積物中の温度を長期間測定する装置の製作を進めてきました。長期間のデータを解析することによって、海底水温変動の影響を取り除こうというわけです。できあがった装置は、海底地震計に温度測定用の「槍」を取り付けたようなもので(図6、写真2)、長期観測を終えると、海上の船から音響信号を用いた指令を送り、データ記録装置部分を浮上させて回収します。今のところ、半年以上の長期データが得られたのは2地点のみですが、海底水温変動の影響をきれいに取り除いて熱流量を求めることができました。このような方法で浅海域での熱流量測定に成功したのは、世界でも初めてのことです。今後は、紀伊半島沖を中心に測定点数を増やしていく計画です。

[過去の気候変動が復元できる]
 地表面温度の変動が熱流量測定の妨げになるのは、海底に限った問題ではありません。陸上のボーリング孔での観測でも、長期的な気温の変動などが温度分布に影響を及ぼしている場合には、その影響を取り除くことが必要です。このように、地表面温度の変動は熱流量測定にはノイズとなるのですが、逆に、地下温度分布には過去の地表面温度の情報というシグナルを含んでいると見ることもできます(図7)。

 このことを利用すると、ボーリング孔内で詳しい温度分布を測定することにより、過去の地表面温度を復元することが可能となります。熱伝導の性質により、短周期の変動についての情報は失われてしまいますが、長期的な変動を平均的に捉えることができるのが特徴です。北米やヨーロッパでは、この熱学的手法を用いて過去数百年間の気候変動を復元する研究がさかんに行われており、近代的な気象観測以前の期間について貴重なデータを提供しています。

東アジア地域では、これまで同種の研究はほとんど行われていませんでしたが、私たちは、最近、カムチャッカ半島においてチェコ、及びロシアの研究者と共同で気候変動復元の研究を始めました(写真3)。カムチャッカを選んだのは、温度測定に適したボーリング孔が多数あり、都市化の影響が少ないと思われるからです。

2000~2002年の3年間に10本以上のボーリング孔で繰り返し温度測定を行った結果(写真4)、多くの点で過去100年間に地表面温度が連続的に上昇してきたことが示されました。解析の原理・手法が浅海域での熱流量測定と共通していることもあり、この方法による気候・環境変動復元の研究は、これからも継続して行っていく予定です。