5つの研究グループ

地球惑星科学専攻では、5つの研究グループにわかれて研究・教育を行っています。
ここでは、それぞれのグループの研究分野について紹介します。

学生の声

 私とサンゴ礁、そしてCO2
  渡邉 敦 (地球惑星システム科学講座 茅根研究室 博士3年)

 

 私はサンゴ礁におけるCO2循環を中心に研究を行なっている。ここでは研究を始めたきっかけからはじめ、私が行なっているサンゴ礁でのCO2研究について簡単に説明したい。さらに茅根研究室で取り組んでいるその他の研究テーマについても触れておく。

サンゴ礁との出会い
私とサンゴ礁との出会いは唐突に訪れた。大学2年の正月のこと、休みを利用して家族旅行でおとずれた石垣島で東京とのあまりの気温の違いのせいか、私は熱を出して寝込んでいた。沖縄には避寒のためにおとずれたのだった。しかし此処まで来てサンゴ礁を見ずに帰ることはできない。私は熱を押して「民宿 船着場」なる宿の扉をくぐり、その数十分後には白保(しらほ)という今まで耳にしたことの無い海に船出していた。海は静かで何となく物悲しい。沖では白波が砕けている。海に入るとアオサンゴという、ちっとも青くないサンゴが塊をなしてころがっている。そして波うち際にはウンチにしか見えない無数の黒いナマコが。テレビや写真でみるサンゴ礁と何か違う。しかし何となく間の抜けた人々と、やはりちょっと間の抜けたように美しい海の景色に、私は力が抜けるような魅力を受けていた。これは熱のせいだろうか?
4ヵ月後、私は大学3年になり地理学教室に進学した。特にこれといった高尚な理由があったためではない。そもそも地理は苦手だった(そして今も)。ただいろいろな場所に行くことは好きだったので、私には向いているに違いない、と思っていた。しかしそこで茅根さんが講義の中で発した言葉に私は耳を疑った。「しらほ」。正月に感じたあの感覚が蘇ってきた。このとき私の運命は決まっていたのかもしれない。実際、その4ヶ月後には再び石垣島の地を踏むことになった。この石垣への再訪が私のその後の研究フィールドを決定した。



白保のアオサンゴ群落(波利井佐紀博士撮影)

サンゴ礁での研究
このときの訪問で私はより深くサンゴ礁に魅せられた。そしてそこでの調査に。茅根さんが研究代表を務めるサンゴ礁におけるCO2循環研究のバイトとして私はこの調査にくわわった。フィールド調査というのは実質はじめての経験だ。正月以来となる白保に船出をしたが、今回は調査だ。採水した海水を10種類近くのさまざまな種類の瓶に入れ分けた。見たことが無い機械がたくさん現れる。海では泳ぎながらサンゴや海草を観察したり採取したりする人たちが。もぐりながら砂を取ったり水を取ったりしている人も。陸ではサンゴ礁を大きな機械で掘っている人までいる。これが世に言う研究調査か。今思い返せばすべてのことが何をしていたか意味づけできる。しかし当時の私には目にするもの、耳にすることの全てが新鮮な思いだった。しかも皆がそれぞれの専門を生かしながら共同で研究する学際的な雰囲気に、私は参加する誰もがカッコ良く見えた。
私もフィールド研究者になりたい。ここから私のさまざまな紆余曲折が始まる。一日何キロも泳ぎながらひたすらナマコを数え続けたこともあった。左右どころか上下までも分からなくなる、陸からの土壌(赤土)が堆積したサンゴ礁でも泳いだ(これが私の卒業論文である)。あまり悩むことなく進学した修士課程でも研究テーマには悩んだ。サンゴ礁海水中の細菌を蛍光顕微鏡で数えたこともある。しかし転機は新たなサンゴ礁との出会いから訪れた。

サンゴ礁とCO2
修士1年だった99年の年末、私はパラオに飛んだ。新たなるサンゴ礁での調査だ。ここで私はその後の研究テーマに出会った。サンゴ礁とCO2の研究だ。これまで石垣島では偉い研究者や企業の人が研究の中枢をなしていたので、なんとはなしに近寄りがたく感じていた。しかしスケールの大きなパラオサンゴ礁に出会い、やはりCO2の研究がしてみたいと強く思った。そもそもサンゴ礁でのCO2研究とは何なのか。簡単に述べておきたい。
サンゴはイソギンチャクやクラゲの仲間の刺胞動物である。しかしイソギンチャクやクラゲと異なる点は、自分で炭酸カルシウムからなる硬い構造物を作る、つまり石灰化することだ。構造物の中には植物プランクトンを共生させており、この植物プランクトンが光合成でつくった有機物をもらうことでサンゴは効率よく餌を手にしている。光合成と石灰化はCO2の挙動に関しては逆の作用をする。光合成ではCO2が固定され石灰化では放出される。光合成と石灰化がそれぞれどのぐらい起こっているかを知ることができれば、サンゴ礁が大気中のCO2を固定しているのか大気中にCO2を放出しているのかを知ることができる。またどんな条件(気象条件や生物組成)だと固定・放出するのか、また固定した有機物や炭酸カルシウムはどこに行くのかを計測することも大事だ。これがサンゴ礁におけるCO2研究のアウトラインだ。
では実際に光合成や石灰化はどうやって測定するのか。これには海水中のCO2を測定してやればよい。海水がサンゴ礁の上を川のように流れるとしよう。すると川の上流と下流では海水中のCO2が変化している。サンゴの上を通る間に光合成や石灰化の影響を受けてCO2が増減しているのだ。では光合成と石灰化はどうやって分離するか?これにはアルカリ度という化学量を測定してやる。アルカリ度は光合成では変化せず、石灰化のみによって変化する。このCO2とアルカリ度の両方を測定することで、光合成と石灰化をそれぞれ測定できる。



光合成・石灰化と海水中CO2変化の関係

私は共同研究で新たに完成したアルカリ度や全CO2量を測定する機械と修士2年の春から付き合っていくことになった。この機械と新婚生活をしているぐらいべったりと、それこそ夜も一緒に寝るぐらいつきあった。そして何とか良い結果を出すことができた。2000年の時点でのパラオサンゴ礁の光合成・石灰化量を非常に精密に測定することに成功したのだ。1998年のエルニーニョの際にパラオのサンゴは異常な高海水温によって大きく死滅したのだが、死亡以前の計測結果と比べて光合成・石灰化量が大きく減少したことを示すことができた。サンゴ礁は炭酸カルシウムの棲家も作れなくなれば、そこにすむ魚やナマコなどの生き物をまかなう有機物も作れなくなってしまった。



私が付き合っているアルカリ度・全CO2を測る機械

研究室の紹介
私は以上のサンゴ礁でのCO2研究の経験を生かし、現在では石垣島のマングローブ・海草藻場・サンゴ礁連続生態系でCO2がどのように生物に利用され、また大気と交換しているかについて研究を広げている。また最近ではサンゴ礁だけではなく宍道湖・中海のような汽水性の湖でのCO2研究もおこなっている。他にも茅根研究室ではサンゴ礁や沿岸域における次のようなさまざまな研究が行なわれている。

  • サンゴ年輪解析による西部太平洋や西部インド洋における気候変動や海洋環境変動の解明
  • サンゴ礁地形解読による琉球列島における過去の海水準変動地域性の解明
  • 理論と実験アプローチによるCO2の大気・海面間の移動を規定する要因の解明
  • 考古学、地理学的手法によるサンゴ礁環礁州島形成過程の解明



多くの分野の人と共同で研究しながら、沖縄や南の島々の自然・人々に触れることができるこのアクティブな研究分野に関心を持った人は、
研究室のHP(http://www-sys.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~coral/)を参照ください。そして機会があれば研究室におとずれてください。南の国との出会いが意外とここ東大に待っているかもしれません。