5つの研究グループ

地球惑星科学専攻では、5つの研究グループにわかれて研究・教育を行っています。
ここでは、それぞれのグループの研究分野について紹介します。

研究・プロジェクト紹介

宇宙,太陽系,地球の化学進化
橘 省吾 (地球惑星システム科学グループ)

 

「進化」という言葉は,地球惑星システム科学講座のひとつのキーワードで,惑星や地球の進化の必然性や偶然性を明らかにしようとしています. ここでは,私自身の研究や私が地球惑星システム講座の他のスタッフと共同でおこなっている研究:
・宇宙での固体物質の進化
・太陽系の誕生・進化
・太古代から原生代初期にかけての地球表層環境の進化
について紹介します.

宇宙での固体物質の形成,進化
衛星による天文観測から,若い星の周りの原始惑星系円盤の中や,年老いた星がまき散らすガスの中に,地球や太陽系に存在する鉱物が同じように存在し,その組成やサイズなどが明らかになってきました.死にゆく星がまき散らすガスの中で鉱物微粒子はどのようにつくられ,宇宙空間を漂い,やがて新たな星や惑星の材料となっていくのでしょうか.星の組成や大きさが異なると,つくられる鉱物の種類やサイズなども変わるでしょう.温度や圧力,星から流れ出るガスの冷却速度といった物理条件や,星の組成という化学条件の違いがつくられる鉱物の種類,組成,サイズにどのような影響を与えるのか,さまざまな議論がおこなわれていますが,実際の粒子がつくられるメカニズムやその速度などが明らかにされていないため, 正確に定量的な議論ができているとは言えません.そこで,私たちは宇宙での固体物質の進化の描像を明確にするために,実験室に高温・低圧の宇宙空間を再現し,実験装置の中で鉱物をガスから直接凝縮させる実験をおこなっています.これまでに宇宙や太陽系の主要物質である,Mgに富んだかんらん石や金属鉄の凝縮に成功しています.また,ガスの温度やガスの圧力を変化させると凝縮する速度がどのように変化するのかも決定し,宇宙での多様な物理化学条件での固体物質形成に適用しようと日々実験をおこなっています. [永原・橘]

左上図:超新星SN1987A.小柴昌俊博士によるニュートリノの観測でも有名.超新星のまきちらすガスの中から,新たな固体物質が形成される

左図:宇宙空間の条件を再現するための実験装置

右図:ガスから直接凝縮した金属鉄の電子顕微鏡写真(写真横幅約8ミクロン)


また,赤外線天文観測で塵の組成や種類を決定するためには,様々な鉱物の赤外線に対する応答を実験室で調べておく必要があります.光学特性を調べるために必要な鉱物の合成もおこなっています. [橘:国立天文台・京都薬科大との共同研究]
右図:人工のかんらん石 Mg2SiO4 単結晶

太陽系の誕生,進化
太陽系は今から約46億年前に誕生したと考えられています.では,太陽系誕生時の環境はどのようなものだったのでしょうか.太陽系のもととなったガスと塵の塊(分子雲と呼ばれる)は,近くで超新星爆発が起きた際の衝撃波で圧縮され,収縮を始めたという可能性が古くから指摘されてきました.近年,太陽系初期の記憶を鮮明にとどめる隕石(コンドライト)のニッケル同位体分析から,この説を裏付ける証拠を発見しました.コンドライト構成物の中にニッケルの同位体のひとつ,ニッケル60が過剰に存在する部分があることがわかってきたのです.ニッケル60は太陽系の初期にのみ存在した不安定な同位体鉄60が放射壊変してつくられます.この鉄60というのは恒星での元素合成でのみ効率的につくられる同位体で,私たちが発見したコンドライトから推定される鉄60の初期太陽系での存在量は,太陽系形成直前に超新星爆発があったことを強く示唆しています.超新星爆発が太陽系誕生のきっかけだとすると,その爆発は太陽以外の星の誕生のきっかけにもなった可能性もあります.今はばらばらになってしまっていますが,もしかすると銀河の中には太陽と同時に産まれた兄弟たちが光り輝いているかもしれないのです. [橘:ハワイ大・ウィスコンシン大との共同研究]

左上図:オリオン星雲の星形成領域.太陽系もオリオン星雲のような星の集団が形成される環境で生まれたのかもしれない

初期太陽系は圧力が低いため,固体から直接ガスへの蒸発(昇華),ガスから固体への凝縮といった過程で,物質の相変化が起こります.この相変化が起こる温度や圧力は,熱力学計算から求めることができます.熱力学計算ではある温度や圧力条件で最も安定な状態がなにかを知ることができますが,その安定な状態に移行するまでの過程がいかなるものであるか,どの程度の時間がかかるかということに関しての情報は与えてくれません.初期太陽系はその進化の過程の中で,温度や圧力などの物理条件,ガスの組成などの化学条件が変化していきます.時間とともに変化する物理化学条件の中で,熱力学が予想する通りの物質の状態変化が起こるのかどうか,に関しては保証されておらず,外的要因の変化に状態変化が追随できない可能性がおおいにあります.その場合,蒸発や凝縮といった状態変化の速度やメカニズムを温度や圧力の関数として明らかにして,外的要因の時間変化に対する物質の状態の時間変化を考える必要があります.これまで,私たちは地球や惑星の主要な鉱物(かんらん石,輝石,金属鉄,硫化鉄)について,おもに蒸発の速度やメカニズムを真空実験や低圧力水素中の実験で明らかにしてきました.実験で得られた蒸発速度に基づいて考えると,初期太陽系での物質の状態変化は必ずしも外的要因の変化に追随しない,すなわち,熱力学の予想する通りには状態変化が進行しないことがわかりました.このような状況での物質進化を論じる際には,私たちが求めてきた速度データが大変重要なパラメータとなります.最近は,珪酸塩や金属鉄の凝縮の速度やメカニズムを明らかにしようとしています.これは世界でもまだ誰も明らかにしていない問題で,実験としても難しいのですが,その分,挑みがいのある研究テーマです.ちなみに,上述しましたが,これらの速度データは晩期星周囲での物質進化を議論する際にも使用する重要な情報です. [永原・橘]

左上図:オリオン星雲の原始惑星系円盤.原始星が中心で赤く光っている.周囲のガス円盤は,ガスが濃く,背後からの光を遮って黒く映っている

地球大気の進化
太古代や原生代初期の硫化鉄や硫酸塩の硫黄同位体分析から、生物活動や熱水活動では説明が難しい硫黄同位体組成が発見され、注目を浴びています.その特殊な同位体組成をつくった原因として有力と考えられているのは、還元的な地球大気中での火山性の二酸化硫黄ガスと紫外線との光化学反応で、25億年以前の試料からのみその特殊な同位体組成が発見されるという事実は,過去の地球大気には酸素が乏しく極めて還元的で,原生代初期に酸素濃度が急増したという大気の化学進化を示している可能性があります.これまでも他の地質学的証拠から,原生代初期の酸素濃度上昇が議論されてきましたが,特殊な硫黄同位体組成は,大気の酸素上昇の時間スケールや当時の地球表層での物質循環などを定量的に議論するための重要な指標となるかもしれません.また,原生代初期は地球が全球凍結に陥ったと考えられていますが,酸素濃度上昇と全球凍結の因果関係は明らかではなく,表層システムの変動,進化の問題として,非常に興味深いテーマです.
 私たちは2002年~2004年にかけて,原生代初期に堆積したカナダオンタリオ州のヒューロニアン累層群での海外調査,試料採取をおこなってきました.採取試料中の硫化鉄の硫黄同位体組成を,二次イオン質量分析計という数ミクロン程度のごく小さな領域の同位体分析ができる装置を用いて測定しました.その結果,ヒューロニアン累層群の最下部層に特殊な硫黄同位体組成の証拠が残っていることが明らかになりました.この事実は、ヒューロニアン累層群形成中に酸素濃度の上昇が起こったことを示唆しています.より詳細な分析から,特殊な硫黄同位体組成の証拠が見えなくなる時間スケール,すなわち酸素上昇の時間スケールを明らかにすることが可能になるかもしれません.ただし,この特殊な硫黄同位体組成をつくったと考えられる光化学反応のメカニズムの詳細はいまだはっきりしておらず,なんらかの手段で解明をおこなわないといけない問題です.
[田近・多田・磯崎・橘:産業総合研究所・カリフォルニア工科大学との共同研究]

左上図:カナダオンタリオ州ヒューロニアン累層群ゴウガンダ層に見られる氷河性堆積物.酸素濃度増加と氷河期にはどのような関係があるのだろうか


おまけ:夕暮れのヒューロン湖

地球システム科学講座に進学を考えている皆さんへ
地球惑星システム科学講座では,宇宙や太陽系から,地球温暖化など現代の環境問題までの多様な研究対象を,理論や観測,分析,実験と様々な切り口で扱っています.講座のセミナーでは,自分の研究テーマとは,異なる研究対象,研究手法の話を聞く機会も多くなります.最初はなんの話をしているのかわからないかもしれませんが,やがて,それらの研究テーマの意義や手法などの大枠が理解できるようになり,分野の違う研究に聞こえても,根底には地球や太陽系の変動や進化と統一的に理解したいという共通の考えが存在していることや,場合によっては,手法の共通点,対象となる過程の物理化学の共通点なども見えてくるでしょう.そういう発見は,地球惑星科学という大きな分野の研究をする際に必要な知識の幅となり,また,自分の研究テーマをより進展させることにもつながるでしょう.地球や惑星をまるごと理解したいという方,ぜひ私たちと一緒に研究してみませんか.

地球惑星システム科学講座 HP