5つの研究グループ

地球惑星科学専攻では、5つの研究グループにわかれて研究・教育を行っています。
ここでは、それぞれのグループの研究分野について紹介します。

学生の声

 他大学他学科から地球惑星科学専攻へ
  清水 綾 (地殻化学実験施設 博士3年)

 

ある夜の決断
 2000年2月のある夜、私は机の上にある、コンピューターに関する資格試験の受験票を前に悩んでいました。当時、東京理科大学理学部応用化学科の学部3年生だった私は、大学卒業後の進路について悩んでいました。その頃は就職氷河期の中でも一番厳しい時期と言われており、就職活動に苦戦する知人を見ていた私は、情報処理技術者の資格を持っていれば少なくともシステムエンジニアとして就職することが出来るのではないかと考えていました。机の上にあった受験票は自分の将来を約束するかもしれない切符であり、ダブルスクールまでして準備していたその試験を数日後に控えていました。
 ですが、その試験と同じ時間に、東京大学の研究室の見学会が予定されていました。東京理科大学には、学部4年生の卒業研究を他の大学や研究機関で行う制度があります。東京大学にはそのような他大学の学生に卒業研究を行わせてくれる研究室が多数あり、そのうちの1つの見学会でした。ただしそこは、私が未知の「地球宇宙化学」という分野で研究を行っている研究室でした。
 資格試験を受けに行ったら、研究室の見学には行かれません。逆に研究室の見学に行ったら、資格試験は受けられません。受験票を前に、どちらを選ぶべきか悩みました。でも、「資格試験を受ける機会はこれからいくらでもあるかもしれない。でも、他大学の研究室を見学する機会はそんなに無いはずだ。」と思い、受験をやめて見学会に行くことにしました。これが、私が今この地球惑星科学専攻に在籍する出発点となりました。

 見学した研究室は、私が現在所属している、理学系研究科附属地殻化学実験施設です。ここでは地球内部から地球外部まで広範囲に渡って起こっている諸現象を、化学的に解明する研究を行っています。たとえば、火山噴火や地震発生で大気中に放出された化学物質を分析することにより火山や地震のメカニズムを探ったり、マントルに匹敵する圧力条件での鉱物などの物理化学的な性質から地球内部構造を探ったり、隕石や宇宙塵などに代表される地球外物質の化学組成から初期太陽系における惑星物質形成過程の解明を行っています。このような研究の分野を「地球宇宙化学」と言います。(研究の詳細はこのページの最後に載せてあるHPをご覧ください。)
 研究室を見学してみると、世界有数の分析装置を自由に使用でき、先生方や海外からの研究者と議論を交わすことができ、さらに同じ学内に地球惑星科学専攻や地震研究所などがあるので自分がやりたい研究は何でもできる、そんな豊かな環境でした。このような環境で、地震や火山といった自然現象から地球内部で何が起こっているかを解明する壮大な学問を勉強する機会を利用したい、という気持ちが強く起こりました。さらに教授の「温泉に入れるかも」「海外へ調査に行く機会もあるかも」の言葉に誘惑され(?)、学部4年生になったその年の4月、システムエンジニアへの道はばっさり捨て、この分野に飛び込みました。(数ヵ月後、資格試験は一応受けたのですが、あっさり落ちました! 向いてなかったのですね、きっと。)


火山と希ガス
 私の研究について述べます。
 地球上にはたくさんの火山がありますが、火山が生成している場は大きく分けると3つの種類に分類されます。例えば、地球の表面を構成しているプレートは、海底に走る山脈(中央海嶺)で生まれますが、この種類の火山を海嶺型と言います。ハワイのような火山はマントル深部からの熱い上昇流(プルーム)が移動するプレートに点々と穴を開けるようにして出来たため、ホットスポット型と言われます。そして日本列島の火山のように、プレートの沈み込みに関係してできる島弧型と呼んでいます。島弧型では、プレートが他のプレートの下に沈み込む時に水を放出し、その水がマントルに放出されることによってマグマが生成して火山ができます。つまりこの島弧型の火山では、一度マントルに沈み込んだ水が地表へ循環しているのです。さらに、単に水だけではなく、水の中に溶け込んでいる様々な化学成分(炭素や窒素など)も循環していることが分かっています。私はマントルを通して循環している水の中に希ガスも含まれているのではないか、という研究をおこなっています。希ガスとはここでは、ヘリウム,ネオン,アルゴン,クリプトン,キセノンの各元素のことを示します。それぞれの元素には、同位体(同一の元素で、質量数が異なるもの)が存在します。図1に、地球の各部分におけるヘリウム同位体比とアルゴン同位体比を示します。希ガスは地球内部における存在量が少なく化学的に不活性なため、地球深部から地表に到るまでの様々な化学反応による同位体比の変化はありません。
 しかし、例えばマグマが地殻の中に留まっていた場合、上部マントルのヘリウムとアルゴンの組成に大陸地殻のヘリウムとアルゴンの組成が加わり、同位体比が変動することがあります。言い換えれば、マグマの中に含まれている希ガスを調べれば、そのマグマが地殻の中に留まっていたのか居なかったのか、履歴を調べることが出来るのです。ちょっと理解してもらうために、私の研究例の1つを挙げます。

図1 地球の各部分におけるヘリウムとアルゴンの同位体比
(角野ら 2005から引用)
 ギリシャのエーゲ海はたくさんの美しい島が存在することで有名ですが、そのうちのいくつかは日本と同じようにプレートの沈み込みによってできた島弧型の火山です。図2の赤い三角は火山を示していますが、これらはアフリカプレートがユーラシアプレートの下に沈みこむことによって形成された火山列で、エーゲ火山弧と言います。図3の写真の島も、エーゲ火山弧にある、火山噴火によって形成されたサントリーニ島のカルデラ火山であるネアカメニ火山です。山頂付近に行くと、火山ガスがモヤモヤと出ているのが観察されます。

図2 ギリシャの地図、右側の大陸はトルコ
 地図に示した温泉マークで分かるように、ギリシャには各地に温泉が存在します。世界史で出てくる「テルモピレーの戦い」、このテルモピレー(Thermopilae)というのはthermoつまり熱という意味です。実際に、このテルモピレーという地には温泉があります。私達の研究室では1988年から何回かにわたって、ギリシャに存在する温泉ガスや火山ガスを採取し、その中に含まれる希ガスを分析してきました。

図3 ギリシャ・サントリーニ島のネアカメニ火山
2001年には私も現地に赴いて温泉ガスや火山岩を採取しました。その結果、火山弧ではマントル成分が、それ以外の温泉では大陸地殻成分がそれぞれ多いのは予想通りでしたが、同じ火山弧でも東ほどマントル成分の割合が高いことが分かりました。この原因については、火山岩を用いた研究がまだ続けられています。

 
さて、マントルで生じたマグマ中の希ガスは、火山活動に伴って地球表層(大気・海洋・地殻)に現れる際に地球表層の希ガスの混入を受ける場合があることを示しました。私はさらに、マグマ中に含まれる表層起源の希ガスの一部が、プレートの沈み込みに伴ってマントルに運ばれ、循環してきたものではないかと考え、それを証明するための研究をおこなっています。
 東京の南に位置する三宅島や伊豆大島、これらは誰もがご存知の火山島ですね。この地域には他に、八丈島,御蔵島,硫黄島などといった島々が存在し、伊豆小笠原諸島と呼ばれています。この諸島を結んだ南北の線を伊豆小笠原弧と呼びますが、これは東にある伊豆小笠原海溝(太平洋プレートがフィリピン海プレートに沈みこんでいる所)と平行になっています。
このことは伊豆小笠原弧が、太平洋プレートがフィリピン海プレートの下に沈みこむことによって生成したことを示しています。図4は伊豆小笠原弧北部の地図で、たくさんの島々が点在しているのが分かりますが、これらは火山噴火によって形成された島々です。これらの火山島や伊豆半島の火山から、火山ガスや火山岩を採取したところ、沈み込んだ太平洋プレートが持っていたと考えられる希ガスが入っていることが分かりました。

図4 伊豆小笠原弧北部、伊豆諸島の地図
希ガスは地球内部における存在量が少ないということを述べましたが、その理由は、希ガスは揮発性が高いため地表に出るとそのまま大気に放出されて戻ってこない、つまりマントルから出ていく一方だからだ、と考えられてきました。しかし私の研究から、希ガスは地表に出ても沈み込むプレートに乗ってマントルへ戻ってくる可能性があることが分かりました。これは、45億年前に地球が形成された時に地球内部に含まれていた希ガスが現在に至るまでどのくらい減っていったかを考える上で、重要な制約となります。このように、私達の生活に身近な温泉や火山から、地球の進化を考えることが出来るかもしれないのです。何ともスケールの大きい話ですね!
 以上に挙げた私の研究は、火山ガスや火山岩中の鉱物を試料として用います。図5は、用いた火山岩の一例です。これは、三宅島で1940年に噴出した火山岩で、斜長石やかんらん石などの鉱物を大量に含んでいます。そして図6は、火山岩によく含まれている、かんらん石の拡大写真です(図5の岩石から取り出したものではありません)。鉱物や宝石なお好きな方は気づいたかもしれませんが、このかんらん石はペリドットという宝石としても知られています。かんらん石はマグマの中で出来るのですが、その際にマグマが持っている希ガスも取り込みます。そのため、かんらん石の中に取り込まれた希ガスを測ることにより、マグマが持っている希ガスがどのようなものであったか、分かるのです!
図5 三宅島1940年噴出物である火山岩(左)
図6 かんらん石(右)
 しかし、かんらん石は大きいものではありません。宝石として売られている物の中には2センチメートルくらいの大きなものもありますが、それは非常に稀です。私の持っている火山岩の中に含まれるかんらん石にいたっては、最大で2ミリメートル、ほとんどが0.5ミリメートル以下の大きさで、くしゃみをすれば方々に散らばっていきます。そんなに小さい鉱物ですから、含まれている希ガスの量も、とても少ないのです。そこで大活躍するのが、私の所属する地殻化学実験施設にある希ガス質量分析装置です。
 試料の希ガス同位体比を知るためには、希ガス元素それぞれの、質量の異なる同位体を測定する必要があるので、質量分析装置という装置を用います。しかし、量の少ない希ガスを測定するためには、装置は高感度かつ高精度である必要があります。地殻化学実験施設では、高感度・高精度希ガス同位体測定法の開発を行っています。その結果、火山岩のかんらん石といった、希ガスの量が少ない試料についても、測定が可能となりました。世界の様々な研究室で希ガス同位体測定は行われているのですが、実は火山岩のかんらん石の希ガスを測定できる装置は、その高感度・高精度化の困難さからあまり存在しません。つまり地殻化学実験施設の希ガス質量分析装置は、世界に誇る高性能な装置なのです。
 図7は、その世界に誇る希ガス質量分析装置です。この装置は同様のものが他に2台、さらに開発中のものが1台あり、火山ガスや火山岩以外に隕石や宇宙塵に含まれる希ガスを測定することにより、惑星の形成過程に関する研究についても行っています。

図7 地殻化学実験施設の所有する希ガス質量分析装置(MS-III)
こういう運命?
 以上のような研究を学部4年生から始めたのですが、海,山,空どこに目を移しても、それらに関する研究がこの地球惑星科学専攻のどこかで行なわれており、なんてスケールが大きいんだ!と事あるごとに思っていました。そして、大学に入学してからの3年間を化学で過ごしてきたにも関わらず、この専攻での大学院生活に憧れを抱いた私は、入学試験の約2ヶ月前から院試勉強を始めました。試験では化学以外にも他の教科1科目を受けなくてはならないので、地学を選択する事にしたのですが、高校1年生以来地学の勉強をしていなかった私には、始めのうちは目にする問題全てが外国語のように理解不能でした。それでも「絶対にこの専攻の学生になりたい」という一心で頑張り、9月に無事(?)に合格し、2001年4月に晴れて地球惑星科学専攻の修士課程の学生となりました。もし院試勉強をしていたあの頃、アニマル浜口を知っていたら、私は毎日「気合だー!」と叫んでいたかもしれません(笑)。
 ですが大学院に入学したからといってハッピーエンド、という訳ではありませんでした。周囲には地学を専門としてきた学生がたくさんいて、自分自身の知識や経験の少なさに私はこれまで何度も唇をかみました。それでも、たくさんの先生や友達に支えられながら、今も研究をしています。と真面目なことを言っちゃっていますが、息抜きのお遊びは絶対に欠かしていません。
 大学院生になって、大学以外の場所に足を広げる機会も増えました。例えば「火山若手の会」という火山を研究する学生や若手研究者の集まりに参加して、北海道の有珠山や九州の阿蘇山に行きました。また昨年の12月にアメリカ・サンフランシスコで行われた国際学会に出席した際、足を伸ばしてカリフォルニア大学サンディエゴ校のスクリプス海洋研究所を訪問しました。学部4年生の時に初めて読んだ希ガスの論文の著者と感動の対面をし、この研究所にある希ガス質量分析装置を見学したり、偶然にも行われていた研究所のクリスマスパーティーにも参加したり、夢のような時間を過ごしました。図8はそのクリスマスパーティーの時の写真です。私もこの写真に写っていますが、誰だかきっと分かりますね、アジアンビューティーは1人しかいませんから。(え、アジアンビューティーはどこにも居ないって??)地球科学の道に進まなければ、私はこのような貴重な経験をすることができなかったかもしれません。そして今後も自分にどのような経験が待ち受けているのか、とても楽しみです。

図8 スクリプス海洋研究所のクリスマスパーティーにて

 先日、数年振りに再会した大学時代の知人に「どうして化学出身だったのに、今は火山の研究をしているの?」と聞かれました。私は「うーん、こういう運命だったのだと思う。」と、夢見る乙女のような答えを返しました。でも2000年2月のあの夜、資格試験を受けるという決断をしていたら、私はこの専攻に在籍していなかっただろうと思うと、やはり運命めいたものを感じてしまいます。
 このページをご覧になった方、特に他学科の方。地球科学という分野に興味があるようでしたら、ぜひ地球惑星科学専攻を大学院の進学先として検討してみてください。他学科出身でも、興味があればそれで充分ですし、実りある大学院生活を送ることができると思います。そして数年後には私のように「こういう運命だったのか」と言っているかもしれませんよ!!

地殻化学実験施設