5つの研究グループ

地球惑星科学専攻では、5つの研究グループにわかれて研究・教育を行っています。
ここでは、それぞれのグループの研究分野について紹介します。

学生の声

地球温暖化への関心から研究へ
森 樹大(地球惑星システム科学講座・博士2年)

 

 

 

はじめに

 

 私は地球惑星科学専攻・地球惑星システム科学講座、博士課程2年の森樹大と言います。昨年度までは、地球惑星システム科学講座の近藤豊研究室に所属していましたが、近藤先生が定年退職されたため、今現在は同講座である多田研究室に所属しています。この学生の声では、①私が本講座の近藤研究室を選んだ理由、②観測例の紹介、③現在の私の研究、④学部生へのメッセージを記します。学部生の皆さんの大学院進学の参考になれば幸いです。

 

 

研究に至った経緯

 

 私が地球温暖化に興味を持ったのは高校の地理の授業でした。その授業で、酸性雨によって森林が破壊される問題や、温暖化の影響によって北極海の氷が融解し、海面上昇により、孤島が沈没することを学びました。私は「このまま温暖化が進めば地球が壊滅してしまうのでは?」という危機感を覚え、地球温暖化の原因や影響、そしてその対策に関心を持つようになりました。それから、「気温が上昇し続けたら、地球はどうなってしまうのだろうか?」「温暖化を抑制するために自分に何ができるのだろうか?」といった疑問も抱き始め、大学で環境問題に関する授業を多数受講し、それらの疑問を解決したいと思っていました。

 

 私は東京理科大学物理学科に入学し、地球温暖化に関する授業を探していた時、「大気物理学」という授業に出会いました。その授業で、大気を冷却もしくは加熱する原因の一つに、太陽光と大気中に浮遊する粒子状物質(エアロゾル)の相互作用が原因であることを学びました(図1)。その時、初めて「エアロゾル」という言葉を聞きましたが、エアロゾルとは、直径数nmから100 μm程度の液体または固体の微粒子を表します。身近なもので言うと、近年PM2.5による大気汚染問題が深刻化していますが、このPM2.5もエアロゾルの一部です。

 

fig1

図1:エアロゾルの気候影響

 

 大気物理学の授業を受けて、特に光吸収性粒子が太陽光を吸収し大気を加熱するという学術的に面白さに惹かれたと同時に、その光吸収性粒子の削減が有効な温暖化対策の可能性があるという社会的重要性にも関心を持ちました。光吸収性粒子の中でも特に、黒色炭素粒子(ブラックカーボン、以下BC)は二酸化炭素の1/3程度、大気を加熱する効果を持つことが報告されています (Bond et al.2013)。BCの研究は温暖化対策に直結しており、社会貢献にもなることから、私は世界的に幅広くBCの研究を行っている東京大学地球惑星科学専攻・地球惑星システム科学講座の近藤研究室に入りたいと強く思いました。

 

 

観測について


 我々の研究室(近藤研究室)では、世界最先端のBC分析装置の開発や改良を独自に行っており、その装置を用いて航空機観測や地上観測、降水・降雪によって除去されたBCの分析を行っています。


 我々が行う観測の中で一番規模が大きい観測は、航空機観測です。観測は、基本的に我々の研究室だけではなく、複数の研究機関の研究者と共同で行います。主な参加グループは本専攻の大気海洋科学講座、小池研究室や先端科学技術センターの竹川研究室(現在は首都大学東京)、茨城大学理学部の北研究室、海洋研究開発機構、気象研究所、国立環境研究所などです。図2の写真は、2013年の航空機観測で使用した観測用飛行機とその機内の様子です。この写真からもわかるように、機内には複数の研究機関からの観測装置が設置されるため、人が一人歩けるスペースしかありません。また、装置からの排熱がこもるので、機内は意外と暑いです。残念ながら、学生は観測時に航空機に搭乗できないので、観測中は別室で待機しています。観測時の搭乗資格のある人は、責任を持って観測経路を決定でき、さらには装置のトラブルに対応できる人に限られます(私が観測に行ったときは本専攻の小池先生と茂木先生でした)。

 

図2:航空機観測 (観測用飛行機と機内)


 2013年の冬季の観測では、鹿児島~ソウル上空をフライトし、夏季の観測では仙台~女満別上空をフライトしました(図2右)。それぞれの観測対象は、中国から輸送された大気汚染物質とオホーツク海近辺で発生する下層雲です。私もこの観測に参加し、機材搬入や航空機内の装置のセッティング、装置の校正などを行い、観測準備だけでも苦労しましたが、充実した観測生活が送れました。観測後は参加者との食事会もあり、コミュニティーを広げることも観測行事の醍醐味です。

 

研究内容


 博士課程の研究の一部を紹介します。興味がある方は読んで頂けると幸いです。

 

 BC は、化石燃料やバイオマスの不完全燃焼によって大気中に放出され、可視部の太陽光を強く吸収し、大気を効率よく加熱します。そのため、BCの削減は温暖化対策の一環として社会的に非常に重要ですが、「BCが大気中にどれだけ浮遊し、どれだけ大気を加熱するのか」という理解が非常に不十分です。その理解向上のためには、BC質量濃度の空間分布と太陽光の吸収率を観測的に理解する必要があります。BC質量濃度の空間分布はBCの発生・輸送・除去によって決まりますが、特にBCの除去過程に関する観測的理解が乏しいです。図3にBC含有粒子が雲粒に取り込まれ、降水として地上へ落下してくる一連の過程(湿性除去過程)を示します。BC粒子は発生後、水溶性の非BC粒子と内部混合し、湿潤対流において一部のBC含有粒子は雲・降水過程によって大気から除去されますが、一部は自由対流圏へと輸送されます。

 

図3:BCの湿性除去過程


 BCは水に溶けず、化学的に安定である固体粒子であり、BC粒径は降水試料中ではほとんど変化しないことがわかっています。そのため、「BC含有粒子が湿性除去過程で、BC粒径は変化しない」可能性があります。もし、この過程でBC粒径が変化しないのであれば、地上空気中のBC含有粒子と降水によって除去されたBC粒子を同時に観測することで、どの粒径を持つBC含有粒子が優先的に湿性除去を受けたかを観測することが可能です。そこで、私はどのようなBC含有粒子が湿性除去されやすいかを観測的に理解するため、まず降水とともに除去されたBCの粒径分布を正確に測定する手法を開発しました。

 

 

降水中のBC粒子の測定法


 図4に降水に含まれたBC粒子の測定法のダイアグラムを示します。また、この測定法で重要な粒子化装置を図5に示します。まず、地上で捕集した降水試料を一定流量で粒子化装置に導入します。粒子化装置に降水試料が導入されると、同軸型ネブライザーの先端で圧縮された空気ガスにより降水試料をミクロンサイズの細かい液滴に変換します(図5)。直後の加熱チャンバー内は140℃に保たれているため、大部分の液滴がすぐに蒸発し、水蒸気と粒子が生成し、一部の液滴は排水されます。その後、3℃に保たれた冷却機で溶媒(水)を取り除いた後、粒子のみを大気中へ取り出します。その後、BC分析装置によって、各BC粒子の質量を測定します。

 

図4:降水中に含まれたBCの測定法

 

 

図5:同軸型ネブライザーを使用した粒子化装置(Marin-5)

 

 降水に含まれたBC質量濃度や粒径分布を正確に測定するためには、この粒子化装置によって「どのような粒径を持つ粒子がどれくらいの効率で大気中に取り出せるのか」を決めることが重要です。降水に含まれるBC粒子は、100~1000 nmに分布しており、積雪中に含まれるBCは100 nm~数μmという幅広い範囲に分布することが知られています (Ohata et al. 2011, 2013; Mori et al. 2014)。従来使用していた粒子化装置では、降水試料から安定して粒子を取り出せる粒径範囲が200~500 nmであり、取り出せる効率が約11%であるのに対し、本研究で使用した粒子化装置では100~2000 nmの粒子を約50%の効率で、降水試料から粒子を取り出せることがわかりました。これは本研究で使用した粒子化装置が、降水・積雪中に含まれるBC粒子の粒径範囲を十分カバーでき、さらに従来よりも高い効率で粒子を大気中に取り出せることを意味しています。従来と本研究で使用した装置の主な違いは、粒子発生機構の違いです。従来の粒子化装置の粒子発生機構は、超音波振動面に降水試料を導入し、超音波振動によって液滴に変換していたが、本研究で使用した粒子化装置は、降水試料を圧縮空気によって細かい液滴に変換しています。

 

以上まとめると、本研究の重要な点は以下の2点です。

 

1つ目は、同軸型ネブライザーを使用した粒子化装置(図5)により、少量の降水試料でも高時間分解能の測定が可能であること。

2つ目は、どのような大きさを持つBC粒子が降水・降雪除去されたのかを正確に測定できる手法を確立したこと(図4)。

 

図4の測定法を評価したことにより、どの粒径を持つBC含有粒子が優先的に大気から湿性除去を受けたかを直接的に観測することが可能になりました。今後はこの測定法を用いた地上観測を行い、BCの湿性除去過程を観測的に解明しようと考えています。

 

 

学生へのメッセージ


 最後に大学院の進学を希望する学部生の皆さんにメッセージを送ります。私の場合は明確な目標があり、行きたい研究室に入ることができましたが、学部生の皆が必ずしも明確な目標を持っているとは限らないと思います。もちろん、明確な目標を持っていれば、研究室選びには苦労しないと思いますが、明確な目標が見つからなくても、興味のある分野があれば、まずは我々大学院生や先生方に相談してみてください。本専攻では幅広い研究内容を様々な研究手法で取り組んでいるので、きっと学部生の皆さんが研究したい内容が見つかると思います。是非、地球惑星科学専攻・システム科学講座への入学・進学を!