5つの研究グループ

地球惑星科学専攻では、5つの研究グループにわかれて研究・教育を行っています。
ここでは、それぞれのグループの研究分野について紹介します。

学生の声

 アジアの気候変動と季節の推移
  井上 知栄 (地球惑星システム科学講座 博士2年)

 



雨量計データ回収の目的で訪れた,ミャンマーのベンガル湾に面した港町にて,宿泊したゲストハウスの前で撮影(2004年12月)

地球温暖化などの気候変動で季節の進み方はどうなる?
2003年,日本は10年ぶりの大冷夏となりました.いつもの年であれば梅雨明けとなる7月20日頃になっても,梅雨前線が本州付近に居座り続け,低温傾向が続きました.関東地方では8月2日に気象庁の梅雨明け宣言が行われましたが,その後もお盆休み前後に再び低温になり,また東北地方では結局梅雨明けが宣言されないままでした.翌年の2004年には対照的に,気象庁の関東地方の梅雨明けは7月13日でしたが,実際には7月1日ごろから晴れて暑い日が続きました.7月20日には東京で観測史上最高気温の39.5度を記録し,その後も9月中旬まで猛暑は続きました.

この対照的な2003年・2004年の日本の夏は,ちょうど10年前の夏を思い起こさせます.1993年にもやはり,8月に入っても梅雨前線が日本付近に停滞し続け,日本の広い範囲で梅雨明けを特定できませんでした.この大冷夏により,戦後最大の不作となり,米が緊急輸入され,農林水産業の被害が1兆円近くに達するなど,梅雨明けの遅れという季節進行の異常が社会的に大きな影響を与えました.翌年の1994年には逆に,7月の前半までに日本全土で梅雨明けが発表され,記録的な猛暑となりました.このように季節の訪れが年によって早まったり遅れたりするのは,なぜなのでしょうか?そして将来,地球温暖化などの様々な気候変動に伴い,季節の進み方はどうなっていくのでしょうか?

研究のきっかけと現在の研究内容
私は東京大学の学部2年の時に「気候学」の講義を受け,日本には春・梅雨・盛夏・秋雨(秋霖)・秋・冬という6つの季節があり,それぞれの季節で気温だけでなく,天候の変化パターンや地理的分布が大きく異なることを学びました.また,これらの季節が推移するタイミングは必ずしも毎年同じではなく,毎日の気圧配置を用いて調べた結果によると,近年(1970年代以降)は,20世紀中頃に比べて梅雨明けが遅れたり秋雨の季節が早まったりしていて,太平洋高気圧に覆われる盛夏季が短くなっていること,冬季の開始が早まり終了が遅くなって結果的に冬が長くなっている,という研究が紹介されました.この結果は奇妙に感じました.というのも,地球温暖化は実際に進行していて,世界や日本の年平均気温は1970年代以降上昇しているのに,日本ではもっとも暑い季節である盛夏季が短くなったり,最も寒い冬季が長くなったりしているからです.

紹介されたこの研究に対する疑問をきっかけとして,地理学課程の学部4年時の卒業論文では,「気候変動と日本の季節推移との関係」を研究テーマとし,日々の天候を表わす観測データとして日照時間を用いて,日本の季節推移の長期変動を調べました.その結果,関東から九州にかけての日本の中西部地域では1980年以降やはり,梅雨明け(7月下旬)ごろに日照時間が増加するタイミングが遅れ,また盛夏季(7月下旬~9月初め)になっても日照時間が少ない年が1970年代以前より多く出現するようになっていること,日本海側と太平洋側の冬の日照コントラスト(日本海側で少なく,太平洋側で多い状態)が近年強まっていることなどがわかりました.これらの結果は紹介された前述の研究と一致していましたが,一方で,盛夏季の終わり(秋雨季の開始)の時期については1980年代後半以降むしろ日照時間が増加しているという,紹介された研究と逆の結果も得られました.これらの季節推移の変化の原因については,ほとんど分かっていないのが現状ですが,気候モデルを用いた地球温暖化後(21世紀末)の日本の夏の気候予測でも,梅雨明けが現在より遅くなり, 7月下旬以降になっても梅雨前線が日本付近にとどまりやすくなることが指摘されています.つまり1980年代以降の梅雨明けの遅れは,地球温暖化の影響に伴って生じている可能性もあると考えられます.

修士論文では卒業論文で得られた結果のうち,夏の時期に焦点を当て,対象地域を中国など東アジア全体に広げて,さらに解析を行いました(詳細については,ここでは割愛します).そして現在,博士課程においては,フィールドをタイやベトナムなどインドシナ半島へと広げ,近年集まりつつある数十年規模の降水量資料を解析することによって,インドシナ半島の気候変動や,季節推移との関係について研究を続けています.最終的な目標としては,日本などの東アジア,インドなどの南アジア地域も含めた,モンスーンアジア地域における季節の推移と気候変動などとの関係の解明を目指し,研究を現在進めています.


タイでの高層気象観測に参加した時の様子(2003年5月)

研究室での生活
・講義
 博士課程の現在では,講義はほとんどありませんが,修士課程に入学する方には修士1年の間に講義の単位(16単位,講義8つ分)をできるだけ揃えることをお勧めします.私の場合,講義は気候学や自然地理学を中心に取り,気候力学などの地球物理系の講義もある程度取りました.地理学課程出身の自分にとっては地球物理系講義の課題はなかなか大変ですが,なんとか単位は取れました.
・コロキウムとセミナー
 毎週1回,教官(松本先生)と研究室内,および気候学を専攻する他研究室の大学院生などが集まって気候学コロキウム(ゼミ)が行われます.研究室内の人だけでなく,気候学を専攻する他研究室の大学院生なども参加しています.各人の発表は原則的に各学期1回で,修士1年の場合は文献発表(雑誌に掲載された論文の発表)が主です.年度末の2月には修士論文の方針を発表します.このほか,「地球惑星システム科学セミナー」と「地球環境コロキウム」がそれぞれ月に一度催されます.システム科学セミナーは主に外部の先生方の研究発表,地球環境コロキウムはその中の地球表層環境に関係する数研究室が集まって開催しているゼミで,主に院生の研究発表が行われます.
・そのほかの時間
 講義やゼミ以外にも,研究室内外の院生により自主的に輪読会を開き,モンスーンや気候学に関する英語の本を輪読しています.また修士課程の時期には,講義などのない自由な時間を使って本や論文を読み,最新の研究に関する情報を得たり,気候・気象データの解析作業を行ったりしながら具体的な研究テーマを模索したりしていました(博士課程の現在ではもっぱらこれらの作業が中心ですが).我々の研究室は気候データの解析が中心で,そのデータはある程度まではCD-ROMやインターネット上で入手できるため,おのおの自分のパソコンを使って研究を行うことが多いです.

研究に必要な知識
 気象学など地球物理学の知識もある程度必要ですが,我々の研究室の場合,数式を追っていくようなことより,気候・気象の観測データの意味を理解したり,論文などに掲載された図の見方を理解したりすることがさらに重要になります.身近な例では,日々のテレビの気象情報などに興味を持って視聴し,毎日の天気について理解を深めていくことも,研究に役立つと思います.また,データの取り扱い方という意味で,統計学の知識は非常に役に立ちます.パソコンに関しては,表計算ソフト(Excelなど)などに習熟しておくと研究がスムーズになると思います.そのほかの専門的な解析・描画ソフトは,基本的には研究室内での講習会などで学ぶことになります.研究対象地域は海外であったり,グローバルスケールの現象に関することが多かったりするため,研究に関する文献は英語がほとんどですので,英語力は非常に重要になります.

あわりに
 指導教官の松本先生は,東アジア・東南アジア・南アジア・オーストラリアなどのモンスーンアジア地域を中心として,グローバル規模での気候を研究対象としています.また大学院生の研究地域も,中国などの東アジア,チベット高原,インドシナ半島,マレーシア,バングラデシュ,インドなど,モンスーンアジア地域全体に広がり,研究テーマも気候そのものだけでなく,気候・気象と,農業など人間活動との関係や,森林生態系との関係などを扱っている学生もいます.また実際に研究対象地域へ行くチャンスも多いです.例えば昨年度の修士2年生は3名とも,松本先生とともに現地(マレーシア・ベトナム・インドなど)に足を運び,調査などに参加しました.自分も昨年は雨量計の設置などの目的でベトナム・ミャンマーに連れて行ってもらいました(写真参照).昨年はさらに,国際学会参加などの目的で中国・ハワイ・台湾にも行きました.いずれも自分にとって貴重な体験となっています.最後に,モンスーンアジア地域の気候や環境,さらには自然と人間活動との関わりについて広く興味を持っている皆さんが,私たちの研究室へ参加することを期待しています.